そこではNetAgeから投資を受けている会社向けに、ご自身の経験談を語ってくださったのですが、その話があまりに素晴らしいので小澤さんの許可を得て、Blog記事にさせていただきます。
以下、伊藤翔太(En/CEO)が、小澤さんのお話の要旨を、まとめさせていただきます。
よろしくお願いします。
まずはじめに、小澤さんの経歴を簡単にご紹介します。
1999年 株式会社ビズシーク設立。代表取締役就任
2001年 株式会社ビズシークを楽天株式会社に売却
2002年 楽天株式会社執行役員就任。オークション事業担当
2005年 楽天の球界新規参入を担当。株式会社楽天野球団取締役事業本部長として、球団運営を行い、パシフィックリーグ唯一の黒字運営を実現。
現在は、小澤さんは、楽天株式会社顧問、ロケットスタート(nanapi運営)パトロン、 CivicForce理事として活動されています。
※以下、小澤さん目線で綴ります。
■ビズシークの設立と売却
僕は、ビズシークを株式会社化するまで、2年間、投資家周りをしていました。しかし、97年、98年は、インターネットベンチャーに投資しても、投資リターンを得る場がなかった。M&Aや、IPOしてEXITするという実例が全くなかったんですね。それが、99年の東証マザースや、孫さんが設立した大証ナスダックで、ベンチャーのIPOが初めて可能になった。
2年間、投資家を回っている間、僕は、「サービスの良さ」を売り込んでいた。けれども、投資家サイドとしては、「何年後にいくらで返ってくるのか」が最も重要で、どんなにいいサービスでも、投資リターンで儲かるメドがなければ、投資家は投資しない。これは、後になってから気づいたことでした。
最初に、NetAgeの西川氏から投資を受け、2000年の初頭までに、約5億円を調達しました。事業は順調に拡大し、2001年に、楽天に買収を受けました。
楽天以外に、アメリカの会社とも交渉していましたが、この時に、アメリカのM&Aのデューデリジェンス(企業価値評価)を経験しました。向こうの会社は、システムやデータベースまで見て、企業価値を評価していました。
他方、日本の会社は、チームとしての評価を重要視していたように感じました。
■楽天に参加
ビズシークが、楽天に買収された際の社員の人数は、150人くらいでした。それが、現在では約1万人の社員数を誇り、売上も30億円から、約4000億円まで伸びました。このような拡大期、日本で一番成長している会社を間近で見ることが出来る、というのは非常に面白い経験でした。
■コンプレックスと球界参入
実は、社長時代は、赤字のまま買収されたこともあり、「自分は事業を作れないのではないか」というコンプレックスを持っていました。
しかし、2004年に取り組んだ、楽天球団の設立では、初年度に2億円、パリーグでは唯一の黒字化に成功しました。自分自身もこの時は、120点の仕事ができたと思っていますし、このときの経験で、「事業を作る」本質がわかったように思います。
ネットしか分からない状態から、リアルでも、「事業を作る」ことができるようになり、球界参入の経験は非常に貴重なものでした。
■投資家として
2006年から、個人投資家としても活動しています。僕自身が、先輩から大変かわいがって頂いたという思いがあるので、その恩を、後輩に向けて返そう、と思っています。
それまでは、投資よりも寄付をしていました。投資先の増資などは、基本的には僕が対応する形で進めています。95年頃からIT業界にいて、やたらめったら知り合いが多い。相談できる相手も、多いので、その意味ではとてもよかったです。
■事業をするときの8つのポイント
ビズシークをはじめたころは、ポイントがよくわかっていなかったのですが、経験を積むに連れて、事業をするときに外してはいけない、ポイントがあるということに気づきました。
1 何故やるか
どうしても、小澤がやらなければならないことなのか。やらなければならないと、思えるかどうか。山田でも、田中でもなく、「小澤」がやる理由が必要。
2 ゴールはどこか
ベストのシナリオはどういったものか。また、ベストでなかった場合でもしっかりゴールできるかどうか。
3 何をやるか
どんなビジネスをするのか
4 どのようにやるのか
5 難しさ
エベレストに上るくらいなのか、富士山なのか、はたまた高尾山なのか。
6 ポイント
事業をやる上で一番重要なポイントはどこかを、突き詰めておく。
7 持っていなくてはいけないものは何か
8 全部失敗したら、どうなるか
何をやるのか、より、どのようにやるのかの方が、遥かに重要。
「フランス料理で、東京で一番美味しい店を作れば、儲かると思います」
これ、当たり前だと思うんですよ。もちろんそう。問題は、どうやってそれを実現するのか。例えば、3つ星レストランのシェフが一ヶ月5万円で働いてくれる、とか丸ビルを一坪30円で借りられる、とか富裕層のリストを2万件持っているということになれば「それ、まじやべーな」ということになるわけです。
プロ野球チームを作ったときでも、「プロ野球チームを作る」ということは決まっている訳です。「どうやってやるのか」がポイント。
洋服のECサイトでも、「やーふく」や「みーふく」「まーふく」は売ってない。
言っている意味わかりますか?
「洋服」はもう、世間では売れています。市場がある。説明する必要が無い。ところが、「やーふく」を売ろうとしたら、「やーふくとは何か」という説明から始めないと行けない。
ビジネスプラン学校をやったときでも、「3日間でビジネスプランを作る」という課題で、2日と18時間くらいは「何をやるか」で揉めている。でも、本当は、「どうやってやる」の方がよっぽど重要。だから、「何をやる」で競うようなビジコンは本当に嫌いです。
で、なるほどなーと思って弁当屋をやってみると、やっぱり通用した。病院経営でも通用した。
楽天のような、プラットフォーム事業というのは、「難易度S」です。マーケットプレイスはエベレストに近い。年間1人も上れないです。筑波山には、がんがん上れます。登る山に寄って、必要な装備は違う筈です。だから、登る山を知る必要があります。VCによって、どのようなタイプの「山」を好むのかも、違います。だから、お金の出し先に合わせてプレゼンテーションをする、というのも重要です。
また、7合目くらいで買い手となる可能性のある会社に、先にヒアリングしておくことも重要です。僕がビズシークをやったときも、「300万本の古本データがあれば、買ってもらえる」という保険をはってからやりました。
投資やM&Aは、相対交渉です。だから、相手が求めているものにマッチするかが大事なのです。ビズシークのときは、「商品数」がポイントになる、ということでした。だから、キャッシュは全て「商品数」を集めることに使いました。ポイントが分かっていれば、資本効率が良くなるのです。
もし、エベレストに登りたい、と思っても、ステップ上にすることが大事です。最初は筑波山に、次に富士山に、最後にエベレストに到達するようにプランを設計する。10年前を振り返って思うのは「筑波山の登り方もわからないのに、エベレストに登れなかったなあ」ということです。
筑波山に登る、つまり、スモールサイズでの成功がまず重要です。億単位の増資は、シンプルな理屈が必要です。10万円かけたら、11万のリターンがあるのならば、1億円かければ、1億1000万儲かる。
つまり、1億円かけて作ったデータは、1億円の価値があるようにするのです。そうすれば、最悪売却するときでも、かけたお金と同じ、価値がでるのです。だから、どのようなデータをストックして行くのかを考えてることは、非常に重要です。
スモールサイズで成功する迄は、会社にもしないほうがいい、僕はそう思います。
せこくて結構。僕は失敗大嫌いですから。
■伊藤のまとめ
まず、一番感じたこととして、小澤氏はかなり論理的、合理的な発想をする方であるということです。「小澤の職場•現場体験ブログ」などをよみ、節分にたくさんの豆をぶちまけている人(http://d.hatena.ne.jp/ozarn/20110208/1297145171)というイメージが強かったのですが、彼の理屈はとても鋭く、ビジネスモデルを何度も咀嚼して作っている方だと思います。
そして、僕が最も共感したのは、「ストック型でビジネスをする」ということです。ストック型のビジネスをしないと、DoComoやauのような、キャリアですら、「土管化」するリスクと戦わなければならない時代のように思います。
その中で、どのような性質のコンテンツをストックし、どのようなインターフェイスで見せるのか、ということが問われるのではないでしょうか。それを意識して、サービスを作って行くことが重要だと考えます。ポジショントークですが。
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株式会社En 代表取締役CEO 伊藤翔太
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